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(1)現代の製造業にメタマテリアルが必要な理由

(1)現代の製造業にメタマテリアルが必要な理由

(1) Why Today's Manufacturing Industry Needs Metamaterials

Nature Architectsの技術ブログでは弊社に関連する技術領域を中心として、あゆるものづくり業界に役立つ情報をシェアすることを目的にしています。 初回は3回連続で代表の大嶋がメタマテリアルにまつわる3つの重要なトピックを紹介します。

Nature Architects' technical blog aims to share useful information for the manufacturing industry, focusing on technical areas related to our company. In this first installment of a three-part series, our representative, Mr. Oshima, will introduce three important topics related to metamaterials.

大嶋泰介

Taisuke Ohshima

2022,08,08 2022,08,08

メタマテリアルとは何か?

メタマテリアルとは何か?という定義の前にまず具体例を紹介します。この動画のメタマテリアルはゴムやエラストマーなどの一般的な柔軟な材料に穴をあけたシンプルな幾何構造ですが、特異な変形を生み出しています。一般的な柔軟材料は体積を保存するため圧縮方向と垂直な方向に膨らみます。一方で動画のメタマテリアルは圧縮方向に垂直な方向は膨らまずに縮み、全体として体積が拡大縮小する通常ではありえない変形が生まれています。こうした構造は負のポアソン比を持つメタマテリアル(Auxetic)と呼ばれています。

メタマテリアルという用語には様々な定義が存在しますが、弊社は最も広い意味での定義を採用しています。メタマテリアルとは特定の材料に人工的な幾何形状を設計する、または空間的に異素材を適切に配置して複合化させるなど、幾何構造や材料配置を適切に設計することで目的の”マクロな物性”がコントロールされたモノであり、その結果従来の物質の機能を凌駕するモノを指します。つまりすごく大雑把に言えばカタチの設計で新しい機能が生み出されたモノはメタマテリアルと考えることができます。動画のAuxetic構造は力学的メタマテリアル(Mechanical Metamaterials)のひとつだと言われています。

Auxetic構造は面白い変形をするだけではなく産業応用へのポテンシャルを秘めています。例えば、何かの対象物がAuxetic構造に触れた際に、ポアソン比が正のゴムやエラストマーなどの柔軟材料と比較してAuxetic構造は極端に大きな接地面積を生み出し「まるで対象物に吸着するような変形」を実現する高い追従性/圧力分散を実現する構造となっています。

image.png (81.0 kB)

さらにこの構造は穴が空いているだけのシンプルな形状なので量産が可能です。したがって、この構造を寝具やオフィスチェアなどに組み込みめば体圧を大幅に分散する高機能な製品を生み出すことが(おそらく)可能です。

image.png (207.9 kB)

Auxetic構造は高い追従性/体圧分散以外にも衝撃吸収性、振動吸収性、音響遮断性に関しても従来の素材を超える性質を生み出すポテンシャルを持つと言われています。

負のポアソン比を持つ構造(Auxetic)が実際に現実的に動作する構造として発見されたのは1987年と比較的最近のことです1。さらに動画の穴を空けるだのシンプルな構造は2007年に初めて報告され、発見から20年も経過していません2。このAuxetic構造に限らずメタマテリアル全般の研究はまだ新しい研究領域であり、人類が経験したことのない新機能はまだまだ沢山存在すると思われます。

日常生活ではあまり意識することはありませんが、歴史を振り返れば新しい素材の発見/開発/普及で人類の営みは大きく変化してきました。例えば、ガラスの発見/普及がなければ、顕微鏡やメガネも存在せず科学や文化もここまで発展することはなかったでしょう。また、光ファイバー(ガラスの一種)がなければ高速インターネットも利用することがなかったかもしれません。ガラスはあまりにも偉大な事例ですが、メタマテリアルの一種だと考えることのできるハニカム構造もモビリティや航空宇宙産業で軽量で高い剛性を持つ壁面内部材として広く普及し我々の生活を陰で支えています。

私はNature Architectsにはメタマテリアルの設計を通して新しい機能を実現し普及させ、人類の営みをアップデートさせられると信じています。今後2~5年でみなさまに見せられる具体的な設計事例で大きなインパクトを出していこうと思っています。

引用

*1Lakes, R.S. (1987) Foam Structures with a Negative Poisson’s Ratio. Science, 235, 1038-1040.

*2 "Pattern Transformation Triggered by Deformation" September 2007Physical Review Letters 99(8):084301

Writer

創業者 / 顧問

Founder / Advisor

大嶋泰介Taisuke Ohshima Taisuke Ohshima

東京大学総合文化研究科広域科学専攻広域システム科学系博士課程単位取得退学。独立行政法人日本学術振興会特別研究員(DC1)、筑波大学非常勤研究員などを経て、2017年5月にNature Architectsを創業。メカニカル・メタマテリアル、コンピュテーショナルデザイン、デジタルファブリケーションの研究に従事する。独立行政法人情報処理推進機構より未踏スーパークリエータ、総務省より異能ベーションプログラム認定。

Ohshima received ABD in the Department of General Systems Studies,
Graduate School of Arts and Sciences, The University of Tokyo. After working as a Research Fellow (DC1) of the Japan Society for the Promotion of Science (JSPS) and a part-time researcher at the University of Tsukuba, he founded Nature Architects in May 2017. He is engaged in research on mechanical metamaterials, computational design, and digital fabrication, as well as the development of technologies for calculating the elasticity and deformation of materials and designing, fabricating, and controlling them freely through geometric structures. He has been certified as an MITOU Super Creator by the Information-technology Promotion Agency, Japan (IPSJ), and as an interdisciplinary researcher by the Ministry of Internal Affairs and Communications (MIC).

Taisuke Ohshima
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