JP EN
お正月にエラスティカ曲線をあじわう

お正月にエラスティカ曲線をあじわう

Savoring the Elastica Curves in the New Year

しめ縄飾りを題材に、しなやかな棒状物体の変形の理論やシミュレーションについて紹介します。

Using Shimenawa decorations as a subject, this article introduces the theory and simulation methods of deformation for flexible rod-like objects.

岡要平

Yohei Oka

2024,01,24 2024,01,24

はじめに

エンジニアの岡です。本年もよろしくお願いします。 弊社では幾何学と力学が密接に関連した設計を日々行っていますが、本記事では(すでに1月も下旬になってしまいましたが)お正月のしめ縄飾りの形状を力学的に考えてみたいと思います。

しめ縄飾りの形

お正月に玄関などに飾られるしめ縄にはさまざまな形状がありますが、稲藁から直線状の縄を作っておき、曲げて部分的に固定することで輪などの形にしているものをよく見ます。水引についても、和紙をよった直線状の材料を曲げることで作られています。

これはしなやかな棒の両端に変位境界条件を与えている状態とみなせます。なお、しめ縄も水引も物によっては材料の非線形性や重力の影響が大きくなっているものもありますが、本記事では材料の弾性範囲で曲げ変形が支配的になっている状況を考えます。

エラスティカ曲線

このようなしなやかな棒曲げによって生じる曲線はエラスティカ曲線と呼ばれ、17世紀ごろから物理学者たちの研究対象になってきました。身の回りの例として、自転車のブレーキ等のワイヤー、ギターの弦、電源ケーブルなどが、おおよそエラスティカ曲線の振る舞いをします。

機械系の材料力学で一般的に学ぶ梁の曲げは、たわみ角が微小な場合の理論でした。エラスティカ曲線でも「中立軸に垂直な断面はが変形後も平面を保ち中立軸に垂直である」という前提は同じですが、たわみ角が微小でないと仮定している点が異なります。

エラスティカ曲線が満たすべき条件はエネルギ最小化問題として記述することができます。曲げエネルギーは曲率 \kappa の2乗に比例することから、次の式の弾性エネルギ E[\kappa (s)] 最小にするような \kappa (s) を求めることができれば、曲線の形状を知ることができます。なお s は弧長パラメータ、 l は棒の全長です。

E[κ(s)] = ∫_0^l κ(s)^2 ds 

曲線の形は材料物性や断面形状に依らず、境界条件と全長のみで決定されます。

上式から得られる微分方程式の解析解は18世紀にオイラーが示していますが、この記事では便利なツールを使って数値的に解くことにします。

Kangarooを使った数値解析

今回は3D CADのRhino/Grasshopper環境で使用できるKangaroo2と呼ばれるプラグインを使用します。Kangaroo2では、様々な物理的な条件(Goal)に基づくエネルギー最小化問題を解くことなどにより形状をモデリングすることができます。強度計算など部材に作用する応力を知りたい場合には不向きですが、今回のしめ縄形状のように、材料や断面係数に関係なく決まる棒の変形形状を知りたい場合には適しています。

今回使用するメインの機能はRodコンポーネントです。変形させたい棒を細かな線分に分割してRodコンポーネントに入力すると、隣り合う線分同士の成す角の変化量に比例したモーメントが生じます。これにより棒状物体の曲げ剛性を表現することができます。

境界条件はAnhcorコンポーネントおよびDirectionコンポーネントで付与します。Anhcorコンポーネントは固定したい節点と、固定したい場所の座標を入力することで、両者が一致するような剛性を設定できます。Directionコンポーネントは、梁要素とベクトルを入力すると、両者が平行になるように剛性が生じます。これらの剛性は上記Rodの剛性よりも十分大きくしておく必要があります。(下の図では、片方の端の境界条件のみ与えています。)

file

以下は2種類の境界条件でを与えた場合の変形形状の例です。×印が固定位置、矢印が固定位置の棒の角度を示しています。上2つと、下2つはそれぞれ同一の境界条件ですが、左右でことなる安定状態となっておいり、前回記事で紹介されていた双安定構造とみることもできます。

しめ縄形状をシミュレートしてみましょう。冒頭の写真をイメージして、直線上の棒(稲藁の縄)を曲げて輪を作り、固定します。上記例とは異なり、境界条件を与える点を直線の両端ではなく途中にすることで、固定部から端は直線となります。

これだけでは味気ないので、水引部分を追加し、さらに縄部分をモデリングしてみると以下のようになりました。CGとしてはかなり雑ですが、ある程度写真のしめ縄に近い形状になったのではないでしょうか。

水引部分に関しては、現物よりも曲率がやや小さくなっているように見受けられます。実際の水引では曲率が大きい部分が弾性的でない変形をしたり、クリープすることでより曲率が大きくなっているものと推測されます。

冒頭の写真の輪形状のものについてもモデリングしてみると以下のようになりました。

さいごに

本記事ではエラスティカ曲線のシミュレーションによりしめ縄の形状の再現を試みました。理想的な弾性曲げ以外の影響もあるので正確とは言えませんが、しめ縄の形状の種類を、エラスティカ曲線の境界条件のバリエーションと捉えることはできるのではないでしょうか。

お正月は過ぎてしまいましたが、しめ縄以外にも同様の性質を示す物体はいろいろあるので、みなさんも身の回りのエラスティカ曲線を探してみてはいかがでしょうか。

参考文献

[1] Levien, R. L. (2009). From Spiral to Spline: Optimal Techniques in Interactive Curve Design. University of California, Berkeley. https://levien.com/phd/thesis.pdf

[2] Daniel Piker. (2019/1/19). How does Kangaroo solver work?. Rinoceros Forums. https://discourse.mcneel.com/t/how-does-kangaroo-solver-work/92075

Writer

エンジニア

Engineer

岡要平Yohei Oka Yohei Oka

京都工芸繊維大学 工芸科学研究科 機械設計学専攻修了(修士)。分析機器メーカーで製品開発に従事したのち、2023年Nature Architects入社。趣味のルービックキューブでは世界大会優勝経験あり。

採用インタビューはこちら

Completed the Master's Program in Mechanodesign at the Graduate School of Engineering, Kyoto Institute of Technology. After being involved in product development at an analytical instrument manufacturer, joined Nature Architects in 2023. Has experience winning a world championship in Rubik's Cube, a hobby.

Yohei Oka

Related Topics

Up Next