1分で分かる要約
低変数で多様な模様を生成できる”チューリングパターン”を自動車衝撃吸収部材に適用することで,複雑な事象が複数ある状況でも素早く良形状を探索することが可能になりました!

そして,株式会社浅野さまの協力により実物をプレス成形で作成することができました。それらを人とくるまのテクノロジー展2026横浜,名古屋にて展示しております!
横浜展は5/27㈬~29㈮で小間番号267,名古屋展は6/17㈬~19㈮で小間番号150となっています。
ぜひ実物を見にお越し下さい!

複数の衝突形態を持つ部材設計の難しさ
弊社,NatureArchitectsでは自動車産業を始めとする各種衝撃現象に対するエネルギー吸収部材(以下,EA材)の設計をおこなっています。各産業で様々な条件の衝突現象に対して設計を行っていますが,一つの部材に対して複数の衝突状態が設定されてそのどちらでも性能を向上させる必要がある場合が間々あります。
一例として自動車の衝突設計にフォーカスすると,自動車の車体に対して
- 前面衝突
- 側面衝突
- 後面衝突
- 歩行者の保護
- 乗員の保護 ,,,etc
など様々な衝突試験形態が存在します。
また上記した各衝突試験項目の中にも国・評価期間・保険会社などによって細かな衝突形態の違いが存在します。一例としてアメリカの前面衝突基準を以下に示します。[1]アメリカの前面衝突試験基準においては以下の4パターンの衝突形態が存在しそのどれも車両衝突速度や衝突先のバリア形状が異なります。

以下はTESLA Model Yの衝突試験のフルラップ前面衝突とスモールオーバーラップ前面衝突の映像を示します。ご覧のように衝突形態によって変形する部位が大きく変化し,破壊の様子も大きく変わることが見てとれます。

そんな中弊社では産業問わず種々の部材・条件に対して,最適化を行い性能の各種性能の向上・軽量化する業務を行っています。
以下弊社のテックブログでは自動車部品の最適化事例を掲載しております。この検討例においてはトポロジー最適化で部材の有望形状を探索した後に,その形状からパラメトリックモデルを作成しそのモデルに対して最適化を行っています。

これは最適形状の効率的な探索という意味でとても有効な手法で有る一方,考慮すべき現象が複数ある場合それぞれの現象に対してどの部分が効果的なのかの判別がとても難しくなり,パラメトリックモデルを作成する難易度が格段に上がる懸念があります。
そこで本テックブログでは少ない変数で多様なパターンを創出できる”チューリングパターン”を各部材に適用する方法を考案し,複数の条件を持つ衝突部材に対して高速に形状を最適化する手法を提案します。
チューリングパターンとは
チューリングパターンとはいわゆる反応拡散方程式による二次元の空間パターンのことで,2種類以上の物質が反応しながら拡散・消滅・増幅することで一定のパターンが生成されます。
基礎原理はアラン・チューリングが1952年に“The Chemical Basis of Morphogenesis”[2]と題して発表し,その40年後V. Castetsら[3]がCIMA反応(亜塩素酸塩–ヨウ化物–マロン酸反応)系において実際の化学分質を用いてチューリングパターンが発生することを突き止めました。
生物学においては1995年に近藤ら[4]がタテジマキンチャクダイにおける縞模様の成長による時刻歴変化がチューリング原理によって遷移している可能性を示唆し,その後の生物学とチューリング原理の深い関わりを紐解く研究につながっていきます。

上記したチューリングパターンすなわち反応拡散方程式には様々な種類が提案されておりますが,基本的なものは以下の式1-1,式1-2で表されます。
これはuとvからなる2成分の反応拡散方程式で,左辺は各物質の時間変化率,右辺第1項は当該物質の拡散効果,第2項は各成分の相互作用による反応の効果を表します。この数式をベースとして係数の追加,自己触媒反応の追加など様々な形の反応拡散方程式が提案されています。
\(\begin{align}
\frac{\partial u}{\partial t}
&= D_u \nabla^2 u + f(u,v)
\tag*{式1-1} \\
\frac{\partial v}{\partial t}
&= D_v \nabla^2 v + g(u,v)
\tag*{式1-2}
\end{align}\)
\(\begin{array}{c|l}
\text{記号} & \text{意味} \\ \hline
u, v
&
\text{濃度,状態量,形態因子など} \\
D_u, D_v
&
\text{拡散係数} \\
\nabla^2
&
\text{ラプラシアン,拡散項} \\
f, g
&
\text{反応項}
\end{array}\)
以下に反応拡散系の例として,ベロウソフ・ジャボチンスキー反応(BZ反応)[5]とフィッツフュー-南雲モデル[6][7]の反応例を示します。これらは反応の時刻歴を出力しており,各時刻での物質の濃度を基準化したうえで値に応じて凹凸をつけて表現しています。

以下のようにベースとなる反応原理が同一でも全く異なるパターンが出ることが分かるかと思います。
上記したように様々なモデルがある反応拡散方程式ですが,その中でも本提案ではグレイースコット モデル[8]という反応拡散方程式を使用することとしています。
グレイースコット モデルは紐と点が一定の間隔で繰り返される自己複製型のモデルで,少ない変数で一定間隔の繰り返しパターンが生み出せることが実部材に適用する形状生成の面で有効と考えています。

グレイースコット モデルを式として表現すると式2-1,式2-2となります。
\(\begin{align}
\frac{\partial u}{\partial t}
&=
D_u \nabla^2 u - uv^2 + f(1-u)
\tag*{式2-1} \\
\frac{\partial v}{\partial t}
&=
D_v \nabla^2 v + uv^2 - (f+k)v
\tag*{式2-2}
\end{align}\)
\(\begin{array}{c|l}
\text{記号} & \text{意味} \\ \hline
u, v
&
\text{物質 } U, V \text{ の濃度} \\
D_u, D_v
&
\text{物質 } U, V \text{ の拡散係数} \\
uv^2
&
\text{物質 } U \text{ と } V \text{ の反応項} \\
f
&
\text{Uの供給率} \\
k
&
\text{Vの除去率} \\
f(1-u)
&
\text{物質 } U \text{ を基準濃度 } 1 \text{ に近づける供給項} \\
(f+k)v
&
\text{物質 } V \text{ が供給・除去によって減少する項}
\end{array}\)
左辺と右辺第一項は前述した式1-1,式1-2と同一で各物質の時間変化率と拡散効果を表します。共通する右辺第2項が物質Vの自己触媒反応を表し式2-1では反応が進むごとにuが消費され,式2-2においてはvが生成されていきます。式2-1の第3項は供給項となっており,基準濃度1に近づけるよう物質Uの供給量を調整しています。式2-2の第3項は削除項となっており物質Vの濃度上昇に伴い物質Vを減らしています。
チューリングパターンを衝突部材に適用する方法の思案
前項で解説したグレイースコット モデルによるチューリングパターンを用いて部材の形状を生成していきます。
本提案では式2-1,式2-2で表されるグレイースコットモデルをSurfaceに対して適用し,物質Uの濃度分布をビードパターンとして用います。

形状生成を行っていくうえで,グレイースコット モデルの各設定を以下のようにします。
-
供給率fと除去率kを変数として設定する。
反応拡散方程式の変数としては拡散項であるDu,Dvと 供給率f,,除去率kが考えられますが,パターンの形成上拡散項はDu:Dv=2:1の割合が安定的に生成されるとされているため拡散項を固定とし供給率fと除去率kの2変数とすることとします。
-
初期入力を一定にする
前述の通り当該パターンは初期入力によって最終形状が大きく変わります。初期入力に有望なパターンを入れることも考えられますが,事前の解析が必要になり有望な形状生成にも思慮・思案が必要になるため今回の提案では初期条件をサーフェス中央矩形に揃えたうえで設定1の供給率fと除去率kを変数としてパターンが自動に生成される条件で探索を行います。
-
供給率fと除去率kに勾配を設ける
供給率fと除去率kが最低1組2変数あればパターンの生成が可能ですが,下図にも見て取れるように設定2の初期入力に引きずられるためパターンが左右上下対象になりやすくパターンの多様性も乏しくなってしまいます。本提案では,供給率fと除去率kに勾配を設けることで各位置で適切なパターンをグラデーショナルに生成することが可能になります。以下の例は矩形の四隅に変数f,kを設定しその間を線形補間したものです。変数が2→8に増加するものの,過大な変数の数ではないため許容可能な範囲かと思います。

以上の設定を用い,簡単なモデルにグラデーショナル・チューリングパターンを適用し最適化を実施してみます。
ここでは下図のような自動車ボンネット簡易矩形モデルを使用し歩行者頭部インパクターを衝突させた際の怪我のリスク(HIC:Head Injury Criteria)を最小化しつつ,衝突した頭部がボンネット下の部品と衝突しないようにZ方向変位を小さくするような形状を探索しようと思います。

当該簡易矩形モデルは1m x 1mの鋼板2層構造で,上板と下板からなります。上板は意匠上形状を修正することはできないので下板の部分にチューリングパターンを適用します。下板の白色が凸部分となっており,その部分が上板と接合されています。境界部分は上下板四周XYZ固定としています。
当該構造の中央に,子どもの頭部を模擬したインパクター3.5kgを時速35km/hで衝突させます。インパクター内に設置してある加速度計から求められる頭部障害値HIC:Head Injury Criteriaと頭部のZ方向変位が最小になる構造を探索します。

最適化の要件は以下となっています。
\(\begin{array}{c|l}
\text{項目} & \text{内容} \\ \hline
\text{使用サンプラー}
&
\text{TPE} \\
\text{初期トライアル数}
&
90 \\
\text{総トライアル数}
&
700 \\
\text{変数}
&
8\ \left(\text{供給率 } f \times 4,\ \text{除去率 } k \times 4\right) \\
\text{目的関数}
&
2\ \left(\text{HIC値,Z方向変位}\right)
\end{array}\)
以下にすべてのトライアルのプロット(灰色)とパレートフロント(赤色)を示します。また代表的な形状をHIC値とともに示します。
HIC値が小さいもの,剛性が大きいもの,中庸なものそれぞれで異なったパターンが発生しパレートが形成できています。

HIC値が小さい個体(下段)は四周に渡って凸部分(白色)が多く,ボンネット上板と下板が接触し固定されている=ボンネット高さが低い個体です。四周高さが小さいことにより固定部分の剛性が低下し頭部インパクターの加速度が減少しHICが下がっています。
Z方向変位が小さく剛性が高い個体(上段)は,黒色のボンネット高さが高い領域が多く剛性を稼いでいます。白色の接合箇所も両側に渡ってつながっています。
中庸な個体(中段)に関しては黒色のボンネット高さが高い領域が支配的であるが,白色の接合箇所が貫通しておらず辺どうしで繋がっていないため,剛性が下がりインパクターの加速度を低減することができています。
このようにグラデーショナルなチュリングパターンを用いることで紐や点などの形状を必要な場所・必要な向きに配置することができ,低変数で自在な性能を実現することが可能になります。
FFCとSORB衝突を考慮したクラッシュボックスの最適化
ここでは前述したグラデーショナル・チューリングパターンを用いて,冒頭紹介した車両の衝突エネルギー吸収部材(以下,EA材)の設計例を紹介いたします。
ここでは車両前方に存在するEA材であるクラッシュボックスを取り上げます。
対象とするのは前面衝突とし,冒頭に示した異なる衝突形態であるフルラップ前面衝突(FFC)とスモールオーバーラップ前面衝突(SORB)の2形態とします。FFCに関しては最も標準的な衝突試験形態として古くから実施されているため対策が十分に練られていますが,SORBに関しては2012年に実施された比較的新しい衝突試験形態のため各車両でいまだ様々な工夫が見受けられます。

最適化の際に車両全体を解析するのは解析時間上得策ではないため,ここでは以下のようなコンポーネントモデルを作成し検討を行います。対象としたのはクラッシュボックスとそのベースプレート,バンパーおよびその接合要素です。車両の重心に代表節点を置き車両重量を考慮し,クラッシュボックス裏のベースプレートと拘束し同一に挙動するようにしています。

FFCおよびSORBの解析設定は下図のようになっています。基本的には対象部材および代表節点に各衝突試験形態の初期速度を入力し,その速度を維持する形で各バリアに衝突させています。SORBに関しては衝突の影響で横にスライドする変形が見られるため,SORB衝突速度の20%を横方向に作用させる形で衝突挙動を模擬しています。

クラッシュボック形状に対してチューリングパターンを適用する場合,形状のどこかに変数f,kの起点を設ける必要があります。ここではベースとなるクラッシュボックス形状(緑)を上下半割にすることで各頂点に変数f,kを設定します。分割の方向は対象部材の望ましい変形挙動を見極めて設定する必要があります。
この半割形状の中央に初期入力である矩形を入力します。パターンの凹凸はベース形状に対して外側に出すことも内側に出すことも可能です。ここではベース形状から外形を大きくしないために対象形状を内側にオフセットした後にパターンによるビードを設けています。

この操作により作成されたパターンを上下鏡面反転させることで,チューリングパターンを適用したクラッシュボックス形状を作成することができます。この形状を成形性を考慮して二分割し,スポット溶接で接合したものを解析で使用します。

以上の解析モデルおよび形状生成を用いて最適化を実行します。最適化条件は以下のとおりです。
クラッシュボックスの材料は鋼板590材とし,鋼板厚さはt1.4で固定とします。
目的関数におけるFFCの評価指標は代表点の衝突方向ストロークと衝突方向反力からなるEA量で,SORBの評価指標に関してはバリアーに作用する力積としています。
\(\begin{array}{c|l}
\text{項目} & \text{内容} \\ \hline
\text{使用サンプラー}
&
\text{TPE} \\
\text{初期トライアル数}
&
90 \\
\text{総トライアル数}
&
500 \\
\text{変数}
&
8\ \left(\text{供給率 } f \times 4,\ \text{除去率 } k \times 4\right) \\
\text{目的関数}
&
2\ \left(\text{FFC評価指標改善率,SORB評価指標改善率}\right)
\end{array}\)
以下は弊社の独自の環境により,形状生成・解析・評価・最適化を一気通貫に行っている様子です。

以下に最適化結果およびパレート代表点の形状・性能を示します。良好にパレートが形成されており,FFC・SORBそれぞの指標が改善している個体が複数見受けられます。

ここではFFC評価指標を維持しつつSORBの評価指標が大きく改善した上段の個体の挙動を見ていきます。
FFC挙動
基準クラッシュボクスとEA量がほぼ同一です。クラッシュボックスが衝突方向に対して外側に開いて取り付いているため,クラッシュボックス内側が先行して潰れその後全体が潰れていく。内側先端にはビードなしの区間が有りその部分が先行して変形することでクラッシュボックス全体圧縮形状のきっかけを作っており,その影響により綺麗に潰れていっています。反力vsストローク曲線を見ても基準形状の最大反力を超えておらず,モデル化していないクラッシュボックス後端のフロントフレームへの影響も少ないと思われます。



SORB挙動
SORB性能が1.2倍となっています。バリアーの形状が丸く横に逃げる力が働くためバリアーに力を伝えつつ,変動する接触位置に対して対応する必要があります。当該個体においてはクラッシュボックス内側先端のビード無し区間を意図的に変形させることで衝突初期の過大反力を抑制しつつ,その後方にある衝突方向に長いビードを設けることで衝突後半の反力を稼いでいる。



まとめ
複数の衝突形態を考慮するEA部材設計に対して,グレイースコットモデルに基づくグラデーショナルなチューリングパターンを用いた形状最適化手法を提案しました。
自分の意志と関係なく発達するパターンは摩訶不思議ですが,その理論は生物を始め様々なものの裏側に潜んでいます。
それらを利用した本提案は各パターンを少ない変数で適材適所に設置でき,衝突関連部材にかかわらず他の機械部品・建築部品の設計に適用できる可能性があります。
あなたもチューリングパターンの沼に嵌ってみませんか?
宣伝(再掲)
上記したチューリングパターンクラッシュボックスを実際に制作し,人とくるまのテクノロジー展2026に展示しております!株式会社浅野さまの協力により実現いたしました!

横浜展は5/27㈬~29㈮で小間番号267,名古屋展は6/17㈬~19㈮で小間番号150となっています。今回紹介したチューリングパターンクラッシュボックスのほか,一体成形リアバンパークラッシュボックスやBEVに関する制作物を展示しています。


参考文献
[1]SafetyWissen(n.d.)“Requirements.” SafetyWissen.
https://www.safetywissen.com/requirement/(閲覧日:2026年5月22日)
[2]Turing, A. M. (1952). The chemical basis of morphogenesis. Philosophical Transactions of the Royal Society of London. Series B, Biological Sciences, 237(641), 37–72. https://doi.org/10.1098/rstb.1952.0012
[3]Castets, V., Dulos, E., Boissonade, J., & De Kepper, P. (1990). Experimental evidence of a sustained standing Turing-type nonequilibrium chemical pattern. Physical Review Letters, 64(24), 2953–2956. https://doi.org/10.1103/PhysRevLett.64.2953
[4]Kondo, S., & Asai, R. (1995). A reaction–diffusion wave on the skin of the marine angelfish Pomacanthus. Nature, 376, 765–768. https://doi.org/10.1038/376765a0
[5]Belousov, B. P. (1958). A periodic reaction and its mechanism. Sbornik Referatov po Radiatsionnoi Meditsine, Medgiz, Moscow, 145–147.
[6]Nagumo, J., Arimoto, S., & Yoshizawa, S. (1962). An active pulse transmission line simulating nerve axon. Proceedings of the IRE, 50(10), 2061–2070. https://doi.org/10.1109/JRPROC.1962.288235
[7]FitzHugh, R. (1969). Mathematical models of excitation and propagation in nerve. In H. P. Schwan (Ed.), Biological Engineering (pp. 1–85). McGraw-Hill.
[8]Gray, P., & Scott, S. K. (1983). Autocatalytic reactions in the isothermal, continuous stirred tank reactor: Isolas and other forms of multistability. Chemical Engineering Science, 38(1), 29–43. https://doi.org/10.1016/0009-2509(83)80132-8

